あなたとわたしは分かり合えないけど 「ジャニーズ性加害問題」をどう捉えたか
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発行年月 2024/5/19
文学フリマ東京38で購入。
ジャニーズ性加害問題についてそれまでファンだったけど距離を置くようになったようなタイプの人達がテキストを寄せた本。
あらゆる出来事がナラティブとして回収されがちなアイドルの活動を楽しむ(消費する)時に、考えたくはないけど、どうしてもその搾取的な構造に加担する形になってしまう事実をすごく極端な形で突きつけられた時、我々はどうしたらいいんだろうかというモヤモヤを覗く感覚は自分にも覚えがある。書く事で整理される面もあるのだろうけど、どれも意見として落ち着いていて、こういう事があった時の自分の中での処理の仕方として参考になる気がした。
半年間、ずっと違和感があったのは、ファンが「私」と「自坦/自軍」だけで完結した閉鎖的な世界の中にこもっていて、社会に対しての視点がないことだった。会見を見て、ジャニーズ事務所/所属タレントもまた同じように「タレント」と「ファン」で閉じた世界にいるのかもしれないと感じ、なんだか恐ろしくなった。攻撃的な「外野」がいる一方で、「タレントが悪いのではない。そういう話ではなく……」とファンの気持ちに寄り添おうとする「外野」もいる。けれども、その声がファンに届くことはなさそうな様子に、一部理解できるところもありつつ、だけどやはり徒労感のような、なんとも言えない感情を抱いてしまう。
ジャニーズ事務所に入所した人物がどれだけつらい思いをしたとしても、現在「成功」していれば、それは「逆境を乗り越えた美しい物語」として受け止められてしまう。傷ついた経験をそれとして受け入れるのではなく、あくまで現在の成功した姿に至るまでに乗り越えなければいけなかった何かとして物語に組み込んでしまうこと。生身の人間を物語として消化することに慣れすぎているようにも思うが、自分もそれに加担しているので、ここをどう切り離すべきなのか、切り離さないまま語るにはどうしたらいいのか、まだ分からなくて逡巡している。
(『あなたとわたしは分かり合えないけど 「ジャニーズ性加害問題」をどう捉えたか』 p40~41)